年間上限についてもの申す

採血基準には年間上限というものがあります。たとえば全血献血なら男性は年間に1200mLまで、女性は800mLまでとかいうものです。(参考:献血の基準について)

ところでこの基準、なにかと気になる部分があります。もっとも私は一介のプログラマーであって医師ではないし、医学的な専門教育も受けていません。しかし、それでも素人ながら気になることはあるものです。こんな個人サイトで多少つついた程度では何も変わらないかもしれませんが、こういう意見もあるということで形にしておきたいと思います。

全血献血の年間上限

前文でもちょっと触れましたが、全血の採血基準は次のようになっています。

年間献血量(全血)
     男性        1200mL
     女性         800mL

つまり400mL献血なら男性は1年に3回まで、女性は2回までできます。

しかし年間の上限という観点では、体重が45kgしかない男性もその倍の90kgある男性も同じ1200mLなのです(体重50kg未満の場合400mL献血ができないので200mL×6回まで)。これに納得できないのは私だけでしょうか? たとえば血漿成分献血なら体重別に細かく採取量が定められています(300mL〜600mL)。全血も同様にというわけにはいかないかもしれませんが、たとえば次のようにはできないでしょうか。

年間献血量(献血‐みやぎ案)
 体重 < 75kg体重 ≧ 75kg
男性1200mL1600mL
女性 800mL1200mL

つまり、“体重が75kg以上あれば一年間に今までよりもう一回多く400mL献血できる”ということにするのです。女性で体重が75kgあるかどうかで分けるのは運用上微妙な問題もあるかも知れませんが、チャンスが増えればやるという人も居るのではと思います。別に75kgでなくとも、80kgでもかまいません。とにかく、“体格によっては上限を拡張しても良いのでは?”と思うのです。

成分献血の年間上限

成分献血の年間上限は、ちょっとややこしいです。血小板成分献血1回を2回分に換算して血漿成分献血と合計で24回以内と表現されていますが、おわかりでしょうか? 1年間に成分献血できる回数の組み合わせを表にしてみましょう。

血漿成分献血(PPP)血小板成分献血(PC)
24 0
22 1
20 2
18 3
16 4
14 5
12 6
10 7
8 8
6 9
410
211
012

まぁ実際には、年間24回もやるなんてよほどのマニアしかないような気もします。しかし、血小板成分献血ができる方の中にはほとんど毎回血小板の採血となる場合もあるそうで、そうすると年間12回が上限となります。これならよほどのマニアでなくとも充分達しそうです。

さて、成分献血の上限と全血の年間上限は別枠であることはご存知でしょうか? 実は私もわりと最近(3〜4年以内に)知ったのですが、成分献血の年間上限に達しても全血献血はできるのです。つまり――例えば1月から6月まで毎月2回血小板成分献血(PC)をするとその年いっぱい成分献血はできませんが、6月の最後の成分献血から2週間経てば(例えば7月には)400mL全血献血をすることも可能なのです(図1参照)。

(図1……1月から6月まで毎月PCを2回ずつ献血すると7月から12月までは成分献血不可となる)

※なお、この例は前年の献血を考慮していません。実際には献血するたびに過去1年以内の献血履歴をチェックする必要があります。

このあたりはちょっと違和感を覚える方もいらっしゃると思いますが、それはそれとして私が言いたいのは“全血と成分が別枠なら血漿成分と血小板成分も別枠でも良いのでは?”ということです。

たとえばさっきの例で言うと、半年で血小板成分献血(PC)を12回しても残りの半年で血漿成分献血(PPP)を12回できても良いのではないか、ということです(図2参照)。

(図2……1月から6月まで毎月PCを2回ずつ献血しても7月から12月まで血漿成分献血を2回ずつできたらいいな)

もっとも、成分献血の採血機の特性として血小板成分を採血すると機械のリンパ球の残存数(体に返されない数)が血漿成分のときより多いそうで、そのあたりから血小板1回を2回分に換算となったという説もあります。しかし最近は、血小板成分を採血しても他の血漿成分の採血機より残存リンパ球数の少ない機種もあるので、基準を見直す余地はあるかと思います。

“年間”の定義

女性の全血献血は年間に800mLまでですが、この年間とはどういうことかというと――たとえば2003年5月15日に400mL、11月15日にも400mL献血したら、その女性は2004年5月14日までの間は全血献血はできません。次に全血ができるのは1年後の同じ月日である2004年5月15日です。これがちょっと微妙な問題で、固定の採血施設にアクセスの良い場所に住んでいらっしゃる方は良いのですが、年に数回しか献血バスが来ないような場所では上限明けに1日とか2日足りずに献血できないということがあるのだそうです。たとえばある町には年4回――2月・5月・8月・11月のそれぞれ第2水曜日にバスが来るという場合、2003年5月14日と11月12日に400mL献血したら、2004年5月の第2水曜日――2004年5月12日には献血できず、次に献血バスの来る8月まで待たなければならないのです。(図3参照)

(図3……女性が2003年の5月と11月の第2水曜日に400mL献血すると、翌年5月の第2水曜日には献血できない)

もしこれが年間でなく52週間だったら……という声はときどき耳にします。医学的には366日が364日でもほとんど違いはないのではないか……そう思わずにはいられません。

1年経ったかどうかに比べて52週間経ったかどうかのチェックは多少面倒かもしれません。しかし、それとて前年のカレンダーをひとつ用意しておけば済む話ですし、今年(2004年)導入されつつある新システムにおいてはソフトウェアの設定を少々変えるだけで充分対応できるでしょう。

※ 2003年11月の第2水曜日を「11月10日」と書いていましたが実際は12日なので訂正しました。

まとめ

日本の献血制度が始まってもう何十年経つのでしょうか、その間に国民の平均的体格も向上し、採血技術も進歩していると思います。一度決めた基準でも、事情によっては改定されてもよいのではないでしょうか。輸血副作用の低減のために全血の場合は200mLよりは400mLが求められていながら、宮城のように“400率”のあまり高くない県もあります。また、血漿分画製剤はその半分以上を輸入に頼っていると聞きます。献血者の健康を損ねないと考えられる範囲でなら、もっと献血できる条件を整えてもよいと思います。


いただいたご意見

りっきぃさんから掲示板にご意見いただきましたので私の返答とあわせて転載させていただきます。

258 年間上限について(私見です)

献血の間隔(次回いつできるか)は、献血することで失った血液の回復にかかる期間から出されていると思います。

それに対して、年間の上限は、血液とかを作る能力に、過分な負担をかけない為じゃないかと思っています。

ここからは、あくまで私見で、理論というよりイメージで読んでね。

例えば、糖尿病という病気があります。血液の中の糖分を下げるインシュリンの出が悪くなったり、効きが悪くなったりする病気です。多いタイプの糖尿病は、カロリーの多い食事をとり続けて、いつもインシュリンを働かせ続けて、働いて働いて、燃え尽きちゃったような感じ。

献血すると、失った血液分を取り戻そうと、血液製造部門が普段より頑張ると思われますが、夜勤、休日出勤と続くと担当者の健康が心配になります。そういうことではないかと。

血液製造能力が200あったとして、普段は100で作っているけれど、献血したあとは150になるとします。で 体の大きい人は、血液の製造能力が小さい人より高いかしら?普段から150で頑張っていて、献血したあとは200になってたりしないかしら??

骨髄の潜在能力は、体格にあまり関係ないんじゃないかと。

259 Re: 年間上限について

コメントありがとうございます。

“体格の大きな人は血液を造る能力が高いだろうか?”ということですが、私は高いと思っています。というのは、体格が大きければ血液量は多いでしょうけど赤血球の寿命は体格にかかわらず同程度でしょうから、造血能力が高くなければ体格を維持できないと思うわけです。ああ、でも常に造血能力の限界近くで働いているということもあるかも知れませんね。

体格だけで上限を緩和するのも問題かも知れませんし、これはある方も以前書いていましたがHbの変化なども観察・考慮する必要はあるかもしれません。

260 じゃあ 成分はどうなのかと

成分は、水分とタンパク質、それに血小板が主になります。

赤血球の(ヘモグロビンの)材料に使われる鉄は、一日に吸収できる上限があって、体格に(食事量に)あまり関係ありませんが、水分や蛋白は、たくさん食べる人は、たくさんあるとストレートにとらえていいんじゃないかな。

細胞成分の血小板の出来かたなんだけれど、これは骨髄の巨核球って細胞が、2000〜4000個の血小板を放出するらしいです。で1個1個の大きさも人によってばらばら。

1個の前赤芽球から8〜16個に細胞分裂する赤血球とは、かなり違います。

標準値を比べて貰うとわかりますが、赤血球に比べて、血小板は個人差が大きいです。製造の予備能力にも個人差が大きいので、たくさん作れる人からは、たくさん貰っても、、、、。(血小板は体格によるわけではありません。全血も赤血球の濃い人からは、同じ400mlの中にたくさん赤血球があるのでたくさん貰っていることになります。)

血小板献血は2回と数えて、、、、って根拠はわかりません〜

ひとつ思うのは、血漿献血に比べて血小板献血は体の外に出て、更に遠心なんてストレスかけられちゃう処理血液量が多くなります。そういうダメージの為かな〜

ちゃんとした根拠は示せないんだけれど、こんな考え方だと年間上限の納得いく点もあるってことで。

261 >>259

血液は骨髄でつくるので、背の高い人は骨量が多くて骨髄も多い。わけなんだけれど、手足の長い骨は、ほとんど脂肪の黄色骨髄になっちゃってて、体の真ん中の方の骨髄が血液を作る能力をもつ。だから身長が増えても、その割には赤色骨髄は増えないし、体重が増えてもほとんど脂肪なら骨髄は増えないという気がするんだけれど、実際のとこはどうかな〜

262 まぁ実際には

とりあえず全血(赤血球)についてですが、単純に考えて体重50kg程度の人から400mL抜くのと体重75kg程度の人から400mL抜くのとでは後者のほうがダメージ小さそうだと思うわけですが、理論的にはそうでもないんでしょうか。

まぁこういうことを言ってしまうとアレですが、年間上限のほかに間隔の規定もあるわけですから、年に1回や2回多く献血しても実際にはさほどの影響はないんじゃないかと思います(^_^;)

偽手帳使いまわして全血を年間4リットルも献血して少々Hb下がっちゃった人もいらっしゃるようです。もちろん売血時代はもっとすごい人も居たようですが。

で、成分ですが。

まず血小板については現状以上に採血するオプションは考えていません。もちろん全血にも血小板は含まれますから全血の年間上限を緩和すれば「現状以上に採血」しうるわけですが、とりあえずそれは誤差の範囲かなと思います。で、おっしゃるとおり血小板数は個人差が大きいです。私自身わりと少なめなので、今まで成分献血を百数十回やってきて血小板成分献血をした(できた)のは一度だけです。逆に言えば、血小板については事前の血算で毎回の可否が判定されるわけですから、あまり心配する必要はないのではと思います。ただ、採血方法による身体への負担については私も詳しくはわからないのでそこのところは保留します。

つぎに血漿ですが、これはけっこう抜いても大丈夫そうだとなめています。で、“血小板12回のほかに血漿12回抜けてもいいんじゃないか”というのは実は私のオリジナルな案ではないのですが、これはある方が厚生労働省に「そうできないなら根拠を教えてくれ」と問い合わせたけどこれといった回答が得られなかったとうかがいまして、どうやらできないことはなさそうだと思った次第です。

263 医学的には

間隔が1日足りなかろうと、問題になりません。 (PL法ができる前は、そのあたりはドナーさんの都合にあわせることが出来たんですが。)

万人に安全な範囲ってのは難しいと思います。ここまでやったら被害が出たから、その手前にラインをひこうということはできません。被害がでちゃならないわけだから、そんな実験みたいなことはできません。どんなに手前にラインをひいても個人差で影響の大きくでる人もいるはずですし。それが本当に献血による被害なのかっていうのも評価は難しいです。

たとえば献血した後その日に、宝くじにあたった。・・・・いいことしたから?でも関係なさそう

献血した後その日に、彼女にふられた。・・・・関係なさそう

献血した後その日に、骨折した。・・・・もっもしかして、血中のカルシウム濃度が??? でも関係は低そう

献血した後その日に、心筋梗塞。・・・・血液の濃度があがって起こしやすくなった??献血しなくても心筋梗塞をその日に起こしたかもしれません。しかしご家族や周囲の方はそう考えないでしょう。

年齢とか性別とか地域とかそういう条件は均一になるようにして、献血したグループの中で心筋梗塞をおこした人の割合と、献血していないグループの中でおこした割合とを比較したとします。(母集団が大きくないと、だめなので大規模な調査になります)結果として、その割合はほとんど変わらないとします。その日に献血してもしなくても、心筋梗塞を起こす人の割合はかわらないと。でも その心筋梗塞起こした人にとって、献血がひきがねにならなかったとはいえません。

どこまでが健康被害のでない範囲なのかは とても難しいところです。結局、経験則というところになるのかもしれません。これまでこうしてきて、大丈夫だっというような。人種という差はあるにしろ、各国のとっている方法とかね。

新薬は動物実験して、志願者で試して、で治験(限られた患者さんのグループ)して、それから一般的に使用可になるわけですが。

一般的に使用できるようになったあとに、ひどい副作用が報告されることもあります。

「そうできないなら根拠を教えてくれ」という問題でなく、 「そうしたとして、健康被害がでないという証拠を教えてくれ」

「何百人という志願者の中では、健康被害が認められなかったとしても、長期にわたっても健康被害がでないという証拠、また何百万に規模を広げても被害がでないという証拠を示してくれ」って問題じゃないかな?

成分献血が始まって10何年?まだまだ長期にわたって献血したときの影響について判断を下すには少ないかもしれないけれど、「影響なし」という評価が積み上がっていけば、年間上限とか、そういう基準はあがっていくんじゃないかと思いますけれど。

(私的には、何回も協力してくれるドナーさんに被害があっては申し訳ないから、今のままで被害の報告がないなら、そのままでもいいんじゃないかと。少子高齢化で必要な献血量が確保できないからと、上限がひきあげられるようなことがあったらいやだな〜と)

264 Re: 263 医学的には

私にしてみれば、「じゃあ今の基準ってどうやって決まったの?」という気もするわけで。今の採血基準が安全だというならどの程度安全なのか、それすらもわからないとしたら安全とは言えないと思います。実際、16歳の男性でHbが12.0でも全血200mLの献血ができますが、学校などの関係者から「男子のHb12.0は貧血だ」と採血基準に異議が提出されており、これは基準を引き上げたほうがよさそうな気もします。

確かに私の「論評」では献血回数を増やすオプションしか提示していませんが、現状でも危険があれば回数を減らしたり基準を引き上げる必要もあると考えています。

上限ぎりぎりまで献血している人がもっとできるように……という(私の)考え方は邪道かもしれません。献血をしたことのない人やあまりしていない人――言うなれば“献血に抵抗を感じている人たち”のその「抵抗」をいかにして減らすか・なくすかを考えたほうが確かに健康的だと思います。これについてはまた別の「論評」で論じてみたいと思います。



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